ハーレーのフライホイールバランス

今回は思いっきりマニアックな内容になる。
そして長文になるだろう。

バランスの概念をシーソーで模した

正直ふつーにハーレー乗っていたらこんな事は知らなくていいし、普段乗るのに意識する必要もない。本来であれば用務員がやっている別サイトで取り上げるような内容である。

ならなんでここでフライホイールバランスの話をするか?
それはハーレーの腰下オーバーホールの際にはほぼ大体のハーレー屋さんがこの作業をするであろうし、ケンチョッパーもする。
でもこの作業、単純ではあるが経験と考え方によってその結果は大きく変わるし、何よりも車両の乗り味ってかエンジンの…フィーリング?に相当な影響を与える上に、エンジンを組んでしまえば簡単に修正ができないっていうものすごく大事な場所だ。
ケンチョッパーとしても、作業後に全く見えなくなるこの作業をするにあたって、バランス取りに対する姿勢を今一度明確にしたほうがいいかなと思ったので、あえてブログにしてみたいと思う。

あとは、たまにあるマニアックな記事は読んでも意味わからんから斜め読みだわ!

と言われて傷ついた用務員であるが、あるバイク屋さんにあの手のTIPS的な記事たのしみにしています!

なんて言われたもんだから、調子にのって書いていってみようと思ったってのが真相だ。

ただ、部品名とか細かい部分の説明は相当省く。文言も正しさよりわかりやすさと勢いを優先して書くので、知っている人が見たら意味違うぞ!って思うところもあるだろけど、その辺は適当に飛ばしてほしい。
読んでても意味がわからない語句も多いかもしれない。そんなときは検索しながら読んでみるかもっとわかりやすい面白そうな記事でも読んでくれたら嬉しいです。

ハーレーのフライホイールのバランスって日本ではどんな意味合いか?

というかまずフライホイールってなんなんだよ!って方もいるであろう。
フライホイールとはレシプロエンジン(ピストンが上下に往復して動力を得るタイプのエンジン)で上死点、下死点で一度止まる少端部重量物を慣性の法則を利用して往復し続けるためのおもりである。以上!

この重り、ハーレーやバイクの場合クランクと一体になっている事が多く、車の場合は外に飛び出していたりもする。エンジンと一緒にブン回っており、圧縮行程で圧縮に負けずピストンを上に持ち上げられるのはこいつのおかげだ。

エンジンは回転運動と往復運動の塊である。得に往復運動のピストン部分(以後、少端部とする)はその移動スピードに対して質量がでかい。しかも往復運動なもので必ず往の部分(上死点)と復(下死点)の部分でその速度は0になる。
そんな重いものが異常な速度で動いているので、慣性もまた半端無い。この慣性の部分がエンジンの主な振動の原因となる。

-------------------------余談-----------------------------------

話はちょっとそれるが、ピストンのスピードがどれほどのものかを体感してみよう。

まず今をときめく(用務員だけかもしれないが)最新式のカワサキが満を持して販売した250cc4気筒、Ninja ZX25Rのピストンストロークは31.8mmである。

アイドリング回転数はちょっとわからないが、仮に1200rpmと仮定(実際にこんなもんだと思う)1分間にクランクは1200回回る。

って事はピストンは1分間で
31.8mm×1200=38,160mm

移動することになる。これを我々が馴染み深い時速/Kmに換算してみよう。1分間で38,160mm移動するなら超単純計算で38,160mm×60分=22,89,600mm=2.289Km/hとなるはずだ。

それでは我らががハーレーのショベルあたりのを比較してみよう。確かストロークは108mmとかだったからアイドリング数値750rpnと考え、上記の要領で計算するとショベルとかのピストンスピードは

4.86Km/hとなる。

このようにロングストロークエンジンは構造や年式に関わらず回転数に対してピストンスピードが早いという特徴を持っている。ハーレーってバイクはそんなに早くないけど、ピストンスピードはロングストローク故にかなり早いってのを覚えておこう。

---------------------------余談終わり-------------------------------------------

すべての直列エンジンに当てはまるわけではないが、気筒が直列に並んでいるスタンダートなエンジンであれば、どこかの気筒が上死点だったときにどこかが下死点に行くような配置になっていればこの慣性を相殺できる。故に相対する他気筒がある場合は一般的なハーレーで行うバランス取りという概念はなく、少端部の重量を精密に合わせることにより原理的には振動を打ち消し去る事が可能だ。

んじゃ、単気筒やハーレーなどの特定のクランク角を持ち相対する他気筒がないエンジンはどうするか?

これは原理的に振動を消す事ができない。でもそれじゃ振動凄まじくて乗ってらんねー!それじゃあれだから常用回転域だけでもいいからなんとかならんのか!
ってのがいわゆるハーレーで行うダミーウエイトをフライホイールにくっつけてやるバランス取りである。

ちなみに著しくバランスが崩れているハーレーに乗ると普通ならどう思うか?
振動が多いのはもちろんであるが、そのへんを意識しないで乗ると大体の人はなんだろ?このハーレー…なんか遅い…と感じるだろう。

不快な振動はそれだけで無意識にエンジンの回転を上げるのを抑制し、結果遅いとか乗りづらいと感じるのである。

んじゃ次に行ってみよう

ダミーウエイトってなんなの?

ダミーウエイトとは色んな部分の重さを量って計算して導き出した重量をフライホイールのクランクピンの穴に取り付けてバランスを取る際に使用するウエイトの総称である。

なぜ”ダミー”とつくかというと、これがピストンとかクランクピンとかコンロットとかの代わり、つまりイミテーション、偽物、代役として使うものだからこの名がついている。

ここの上の穴やや大きめな穴につく。
んで、このダミーウエイトの重さを決めるためにはこの穴につくすべての部品の重さを量る。何を量るかは書くのが面倒なんで、ケンチョッパーで普段使っているダミーウエイトの計算表を見て参考にしてほしい。

ダミーウエイト計算表

こんなのね。excelで作ってあって、各数値を入れると自動的に計算できるようになっている。正直ここまで細かくしなくても良かったと思うんだけど、なんかかっこいいかなと思ってこうやって作った。実際に使ってみるとクランクピン周りとかまとめて量って書いたほうが絶対楽なんだけどね。

ともかくこうしておけば例えばコンロットの重量を変えた場合とかで数値変えれば速攻で計算終わるし、後々の記録にも残せる。
ちなみに用務員は字がめちゃくちゃ汚いので、手書きでやると後で自分でも後々読めないことが多いため、ほぼすべての記録はこのようにデータ化する。

で、この表の右上にバランスファクターという数値があるのがわかると思うが、これは何か?

数値自体は大体52%から60%といったところで、ダミーウエイトに何%少端部の重量を加算するかのパーセンテージでしかないが、んじゃこの値がどれぐらいならいいか?は全国どころ全世界のハーレー屋さんたちの論争の的となっている。

この数値、重量データとか大きさとか長さとかそらもう全ての情報を使って超面倒な計算を行えば、この回転で理論上振動はきえるよ!ってのは計算できる…らしい。難しすぎて理解できない。

興味のある方はその辺のでかい図書館とかに行けばこの辺の理論を垣間見ることができるだろう。

んじゃ論争なんておきないんじゃねーの?

と思うのも当然だろう。だがこの数値がいい、いやこうだとかいう話をその辺でよく聞くのはあれやこれやの要素が相まって数式通りにいかないからであろう。
ともかくこの辺の話はものすげー面倒だし個人的にもこの場合はこの数値ってのがある。実際の作業を行う前にこれだけのものを量って計算して、その中の係数に面倒なのがいるって事をなんとなく理解しておこう。

ダイナミックバランスとスタティックバランス

じわじわとバランスの話に移っていこう。

このフライホイールのバランスを取るってのは

  1. 上記のダミーウエイトをフライホイールに取り付ける
  2. フライホイールの真ん中の穴に棒をつける
  3. その棒を咥えて専用の機械でブン回して重たいところを探すか、水平な台の上で転がして重たいところを探す
  4. 重たい(軽い)所を削ったり埋めたりする
  5. どこでも重さが均等になったら終了!

という感じだ。

この3番で書いた専用の機械(ダイナミックバランサーだったかな?以降、面倒なんでそう書く)を使ってぶん回してバランスを取るのをダイナミックバランス(動的バランス)、台の上で転がしてバランスを取るのをスタティックバランス(性的静的バランス)という。

日本でハーレー屋さんがフライホイールのバランスを取ると言った場合は大体が後者のスタティックバランスで行われている。
これには理由があって、まずその昔はダイナミックバランサーがあまりなく、あったとしてもダミーウエイトを咥えたハーレーのフライホイールをマウントできたりできなかったりしたこと。

もう一つは腕のいいバランス職人であればダイナミックバランサーに頼らずとも同等かそれ以上バランスを取れるとされたため、静的バランスで十分とされてきたということだろう。

ちなみに今はダイナミックバランサーもいろんな機械があるようで、ハーレーのフライホイールでも普通にできるらしい。やったことないけどもしかしたら今後はこっちが一般的になっていくのかもしれない。

んん?重たい(軽い)所を探して削るだけだろ?そんなので腕の差とか結果がかわるのかよ?

と、思う方もいるだろう。これが変わるんである。

次はなぜこの程度の単純作業が作業者によって結果が変わってしまうのかを説明していこう。

丸いからこそ面倒なフライホイールのバランス

って事でやっと本題。

まず用務員お手製の素敵なフライホイールの模式図を見ていただこう。

フライホイールの模式図

(うーん…この…)

赤い丸がセンターホールで、緑の丸がフライホイールの外径だと思って見ていただきたい。

ここでおもむろに穴を開けて見よう。

フライホイールに2箇所穴を開けた模式図

青と紫の丸が穴を開けた場所だ。穴の太さと長さは全く同じで、フライホイールから削り取った質量は同じと考えてほしい。この状態で何が言えるのかというと…

2つ開けた穴の真ん中にマークをいれた

測定上、この赤い矢印の部分が軽くなったということになる。でもフライホイールは台の上で赤い矢印を下にして止まっている。つまりまだここが重いと測定者は考える。
んんんんんんん????意味わからん

ってなるだろう。そこはぐっと我慢して更に説明を続ける。
じゃあ青い部分を更にでかい穴にして軽くしてみよう。そうすると赤い矢印、一番重いと見える場所は…

こっちに来るんである。図では面倒だったので一番下にはにはなってないが、実際の測定台の上だとこの矢印が真下に来て止まるはずだ。

円だとピンと来ないかもしらないが、直線上で考えるとわかりやすい。

まずこの穴間のバランスが取れている状態をまっすぐ上に表現すると

バランスの概念をシーソーで模した

こうなる。

実際は穴なので、軽くなるべきなんだけど、図にするの面倒だったからこれで勘弁してほしい。

で、穴を大きくする(=どっちかを軽くする)とどうなるか?
当然こうなるよね

穴の大きさを変えてシーソーのバランスを崩す

シーソーが重たい方に傾いた状態。
んじゃこれを両方重さを変えずまた水平になるにはどうするか?

大体の人はこんなふうなのを想像するはずだ。

上のフライホイールの模式図を直線に伸ばすとこんな感じ。フライホイールは円だからこの一番重いポイントを穴の位置と深さとか大きさで任意の位置に変えたりできる。

この振る舞いをあくまで個人的な言い方だけどバランスポイントの移動と言っている。

話を実際の測定の時に戻す。

フライホイールは完全に水平な台に乗せられ、その重さに見合わない細めの棒を真ん中に通される。その棒を起点に転がすもんだから重量に対しては非常に小さい摩擦係数ので転がる事ができる。

だがしかし転がり終わってフライホイールが回転運動をやめたときに一番重い部分が一番下に来るとは限らない。特にバランスをとっていい感じになっている後半になってくれば来るほどだ。つまりバランスが取れ始めてれば始めるほど実際に重い(軽い)場所を探すのが難しくなるし、穴を2個以上開ければそれだけでバランスポイントの移動が起こる。その穴が3つ4つとあったらどうであろうか?

うおおおおおおお!!!!!どこだぁぁぁああああぁああ!!!おもい(かるい)ところはぁぁっっっsふぁははははh!!!!

となるんである。
この辺が非常にフライホイールバランスの難しいところであり、思いっきり技術差が出ると言われる所以だ。

このバランスポイントの移動って考えを元に穴を開けちゃならない所を擬似的に軽くすために両脇に穴をほったりもするし、カウンターウエイト下に重量ポイントを持ってきたいなーなんてときも全く関係ないところの重量を減らしたり増やしたりする。

あとは削って軽くするだけじゃなくてこれは重くしたほうがいいかなって場合。

大体の場合は軽い場所の反対側が重くなるのでそこに穴を開けて軽くしてしまうが、年式や社外品の純正タイプの物の中には明らかに軽いものがある。

あとは

穴だらけのフライホイール

こんなふうにアメリカ人が容赦なく穴を開けまくったやつとかね。

写真のは開けられた穴に真鍮を圧入(この手の圧入をする場合は空気の通り道も作っておこう)しておもくした上でちょっと削るって形でバランスをとった例。真鍮は鉄に対して更に重く、その上には銅や鉛がいる。

更に更にアメリカではMallory metalなるタングステンベースの超絶重い(鉄の約2倍)合金を使い重量を補うことによってフライホイールのバランスを取る方法を確立してたりもする。つまりフライホイールのバランスをしっかり取るには穴ほって削る方法だけじゃだめってことになる。

要約しよう。なぜフライホイールバランスにおいて技術差がでやすいのか?

  1. フライホイールのバランスポイントは移動させる事ができる
  2. その振る舞いは穴があればあるほど複雑になる
  3. そのせいで実際に一番重い(軽い)場所を見誤る事がある
  4. 穴開けて軽くするだけじゃなく、時には鉄より比重の高い金属をいれ重くすることも必要
  5. そもそもダミーウエイトの重さっていうスタートからして経験の塊

とこんなだろうか?
話が長くなったが、このへんの理論と考えを元にケンチョッパーではフライホイールのバランスをとっている。ぶっちゃけフライホイールのバランスなんてなんとなくあっていればふつーにバイク乗っている時にその違いを即座に体感できるなんてことはまずない。

なら何も考えず適当に穴を開けてバランスをとったフライホイールと上に書いたような面倒な事を考え色々やったフライホイール、どこで差がでるか?

それはあくまでも個人的であるが、回した時のパワー感(パワーがあるとは言わない)と爽快感にほかならない。つまり乗っていて気持ちいいのは面倒な事やったフライホイールであると言っておこう。

終わりに

いかがだったろうか?ケンチョッパーブログ始まって以来の長文であり、またわけのわからん図表をつかった。
しかも内容が知的で聡明で難解で高い知性を感じさせる・・・んっんーんセクシーな内容となった。うん。でもハーレーのエンジン作業ではこれが一番面倒であり、議論の的になったりする。

多分そのうち書く芯出しとかなんかこれに来ればれば屁みたいなもんである。

って事で今回はこれで終わり!

疲れたー


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